
MTAセメントは、神経を残したいと思う患者様には最良の治療材料となります。ここでは、MTAセメントについて解説していきます。
MTAセメントとは
MTAセメントは、歯科治療において歯の神経や根管の処置に使用される歯科用材料です。Mineral Trioxide Aggregateの頭文字を取った名称で、複数の鉱物成分を主体とした無機素材から構成されています。水分と反応して硬化する性質を持ち、口腔内という湿った環境でも安定して機能するという特徴があります。
従来の歯科材料では対応が難しいとされていた状況、たとえば歯の根の先端に穴が生じているケースや、神経を生かしたまま虫歯の進行を止めたい場面などで、MTAセメントは特有の性質を発揮します。これまでは抜髄(神経を取る処置)や抜歯を検討せざるを得なかった状態でも、MTAセメントを活用することで歯を保存できる可能性が広がっています。
材料としての信頼性が高まるにつれて、適応できる治療の幅も広がってきました。根管治療の専門的な場面だけでなく、神経を保護する処置や外科的な歯内療法など、さまざまな状況で用いられるようになっています。歯科材料の中でも継続的に研究が進んでいる分野のひとつであり、改良型の製品も次々と登場しています。初期の製品と比べて操作性や審美性が向上しており、前歯など見た目が求められる部位への使用もしやすくなっています。
MTAセメントの殺菌作用と生体親和性
MTAセメントが歯科臨床で高く評価される理由のひとつは、硬化過程で生み出す環境にあります。この材料は水分と反応しながら硬化する際に強いアルカリ性の状態をつくり出します。多くの細菌はアルカリ性の環境に弱く、MTAセメントが接した部位では細菌が生息しにくい状態が形成されます。この性質が、感染のリスクを抑えながら治療を進めることを可能にしています。
殺菌作用と並んで重要なのが、生体親和性の高さです。生体親和性とは、材料が体の組織に対して炎症や拒絶反応を引き起こしにくい性質を指します。MTAセメントは歯の根の周囲の組織や骨との馴染みが良く、材料が接触した部位でセメント質(歯の根を覆う硬い組織)の再生が促されることが報告されています。単に害がないという水準を超えて、治癒を積極的に後押しする働きがあるという点が、他の材料との大きな違いです。
神経に近い部位や根の先端を扱う処置では、使用する材料が周囲の組織に与える影響が治療結果を左右します。刺激の少ない材料であるほど術後の回復が穏やかになりやすく、治癒のプロセスもスムーズに進みます。生体親和性の高さは、患者様の術後の経過を良好に保ううえで実質的な意味を持つ特性です。
MTAセメントの封鎖性とその重要性

根管治療や歯髄処置の成否を左右する要素のひとつが、処置部位をいかに緻密に封鎖できるかという点です。隙間があればそこから細菌が侵入し、治療した部位が再び感染するリスクが高まります。MTAセメントはこの封鎖性において、従来材料とは異なる特性を持っています。
一般的な歯科材料は硬化する過程でわずかに収縮する性質があります。このわずかな収縮が隙間を生み、長期的な封鎖性に影響を与えることがあります。MTAセメントはこれとは反対に、硬化時にごくわずかに膨張する性質を持っています。この膨張が周囲の壁面に材料を密着させ、微細な隙間をふさぐことで高い封鎖性を実現します。
封鎖性の高さは、治療の長期的な安定に直結します。根管治療後の歯は、細菌の再侵入をいかに防ぐかが予後を決める大きな要因です。精度の高い封鎖が維持されることで、再治療の必要性が生じるリスクを抑えることができます。治療の効果を長く保つという観点から、MTAセメントの封鎖性は臨床的に非常に重要な特性です。
MTAセメントの適用範囲
MTAセメントが使われる場面は、大きく「神経を残すための処置」と「根管の封鎖に関わる処置」の二つに分けることができます。
神経を残す処置の代表例が、深い虫歯で神経が露出または露出寸前の状態になっている場合に行う覆髄処置です。神経の上にMTAセメントを置いて保護することで、神経を取らずに歯を修復できる可能性があります。従来の材料では神経の保存が難しいとされてきたケースでも、MTAセメントの生体親和性と殺菌作用が組み合わさることで、保存できる確率が高まります。
根管に関わる処置としては、根の先端が未完成な状態の歯(歯根未完成歯)への根管治療、根の先端に生じた穴(根管穿孔)の修復、そして外科的な歯内療法における根の切断面の封鎖などが代表的です。いずれも従来の材料では対応が困難だった、あるいは成功率が低かった状況に対して、MTAセメントが新たな選択肢をもたらしています。
保険適用外となるケースが多いため、費用については事前にご確認ください。当クリニックでは、治療計画のご説明の際に費用についても丁寧にお伝えしています。
MTAセメントの効果
MTAセメントを使用することで期待できる最大の効果は、歯を残せる可能性が高まることです。これまで「神経を取らなければならない」「最悪の場合は抜歯になる」と判断されていた状態でも、MTAセメントを活用することで別の選択肢が生まれることがあります。自分の歯を可能な限り保存することは、長期的な口腔の健康を守るうえで根本的に重要なことです。
治療後の経過という面でも、MTAセメントは安定した結果をもたらしやすい材料です。高い封鎖性によって細菌の再侵入が抑えられ、生体親和性の高さが組織の治癒を支えます。これらの性質が組み合わさることで、治療部位が長期にわたって安定した状態を保ちやすくなります。
ただし、MTAセメントを使用すれば必ずすべての歯が救えるというわけではありません。使用するかどうかの判断は、歯の状態、感染の範囲、周囲の骨や組織の状況などを総合的に評価したうえで行います。また、硬化に時間を要するため、複数回の来院が必要になるケースもあります。
現在の歯の状態に不安がある方、他の歯科医院で「神経を取る必要がある」と言われた方は、一度当クリニックへご相談ください。口腔の状態を実際に確認したうえで、MTAセメントが適応できるかどうかも含めた治療の選択肢をご説明します。
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